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しゃちょ。のメルマガジーヌ編集後記

#338カスタム

どーも。オジコのしゃちょです。

焼きそばに目玉焼きを乗っけてください。
オムライスの中のケチャップライスを、
ドライカレーに替えてください。
肉うどんに味玉を浮かべてください。

なーんて、
いくら懇意にしている定食屋とはいえ、
勝手気儘にカスタムしてメニューに無い料理を、
訳知り顔でオーダーするのは如何なものなのか。
当然、追い銭することを前提にしていたとしても。

私が考察するに、
そんなものは邪道であり不粋であり店主に失礼。
お店が提供するメニューを黙って静かに食べやがれ。
一体全体、貴様は何様のつもりで、
想像力豊かなカスタムをかましてんだ、この猿が。

と、やんちゃな見掛けとは裏腹に、
人並みの常識人でもある私にとって、
この設問は難易度の低いイージー問題。
特段、深く考えるまでもなく、
上記のように、至極全うな見解が、
いとも簡単に導き出される訳であります。
定食屋で創作メニューをカスタムしてはいけない。

しかーし。

地球上に無数にある定食屋や食堂の中で、
唯一、例外がございまして、
それは十年以来の馴染みである酒井食堂(仮名)。
懇意にしている。なんてレベルは遥かに超越。
もはや私の胃袋と一体化しているレベル。

会社の近所にあるこの酒井食堂は味は無論のこと、
何といってもフットワークが軽快で出前が早い。
想定外の来客や打ち合わせに追われてしまって、
日中最大の楽しみであるランチタイムに、
充分な時間が取れそうもない時は、
躊躇せずに酒井食堂に電話一本。

冬季五輪男子スピードスケート1000Mにおいて、
トリノとバンクーバーで2連覇を成し遂げた、
往時のシャーニー・デービスを彷彿させるくらいの、
途轍もないスピードで出前到着!さくっと満腹!

いい店だなあ。いい食堂だなあ。
と、この酒井食堂を愛してやまないわけなのですが、
さすがに十年以上もの付き合いにもなると、
酒井食堂ご自慢の多種多彩なメニューも、
一巡どころか二巡三巡。
いやいや、三巡どころか百巡、千巡。
今日のお昼は何にしよか。と常に逡巡。

あれこれぐずぐず迷って、頭が混乱。
朦朧としながらオーダーしたカレーうどんも、
そういや俺っち、昨日もカレーうどん食べてらあ。
と相成りまして、よもやの昼飯連日被り。
これはご法度。絶対避けたい。ダメ絶対。
強い気持ちで何か手を打たなければなりません。

人間、いかなる崇高な思想や、
至極全うな見解を持っていたとしても、
時と場合、取り巻く環境や状況の変化によって、
己の立場や思想を急転換することもあるでしょう。
日清戦争後の三国干渉を契機に平民主義から国家主義に、
スパッと転向した徳富蘇峰のように。
それが特に、人類最大の関心事である昼飯の事ともなれば。

というわけで、ここは一発、マンネリ打破。
私も徳富蘇峰を見習って前言撤回、立場反転。
この際、スパッと転向しちゃおうかしらん。

と、自分の立場が決まっちゃえば話は早い。
ラミネート加工をDIYで施して会社に常備してある、
酒井食堂の出前メニュー表を見ながら即電話。

「ありがとうございます!酒井食堂です!」

「あ。いつもどーも。オジコのしゃちょです。」

「まいど!いつもありがとうございます!」

「いえいえこちらこそ。出前よろしいですか。」

「いいですよ!今日は何にしましょ?」

ここで一回、深呼吸。
さーて、いきますよ。落ち着いていきますよ。
ここは必死のパッチで一発ぶちかます。
清水の舞台から真っ逆さまに脳天から飛び降りる。

思想や主義や信念や立場や理念。
信条や哲学や観念やイデオロギーを、
今この瞬間、ひょいと変節させてやる。

お店が提供するメニューを黙って静かに食べやがれ。
一体全体、何様のつもりで、
想像力豊かなカスタムをかましてんだ、この猿が。

誰が猿だ。馬鹿野郎。
この旧態依然な考えこそが時代おくれ。
現代に求められてるのは創意工夫と独創性。
勝手気儘なカスタムオーダー。大いに結構じゃないの。
我が想像力と創造力を総動員して、
今日の昼飯を最新型にカスタムしてやる。

「えーっと。じゃあ今日は、」

「はい。ご注文どうぞ。」

「えーっと。えーっと。えーっと。」

「はいどうぞ!」

「オ、オ、オムライスの上にトンカツ乗っけてくださいっ!」

豊穣なる我が想像力を駆使して、
繰り出した決死のカスタムメニューが、
なんとも稚拙なトンカツオムライス。
いい歳して、ないんか他に。。

数分後、
前述シャーニー・デービスばりのクロステクニックで、
お店から我が社までのカーブを高速で曲がり、
驚異的なタイムで酒井食堂の出前が到着。
期待と不安を抱えながら岡持ちの扉を開ければ、
本邦初見参。黄金に輝くトンカツオムライスの姿。
しっかし、さすがは酒井食堂だなあ。
私の注文を忠実に再現しているじゃないですか。

オーソドックスないつものオムライスの上に、
トンカツがでーんと圧倒的な存在感で鎮座。
もちろん、オムライスとトンカツの接着剤は、
言わずもがなのオムライスにかけてあるケチャップ。

さーて、記念すべき初カスタム。
トンカツオムライスをいざ頂きましょうか。

と、スプーンで掬ってお口に入れるや否や、
オムライスとトンカツが取っ組み合いの大喧嘩!
お互いの良さを完全に殺し合い相乗効果ゼロ。

更に、トンカツとケチャップライスに、
お口の中の水分を根こそぎ持っていかれ、
駄目だこりゃ、ごっくん出来ない。
しかも、オムの膜が気道を塞いで呼吸ができない。
このままじゃ死んじまう。助けてー!おかあさーん!

と、長々とくだらない事を書いてきましたが、
調子に乗ったカスタムメニューで危うく死にかけたお話。

カスタムオーダーはやめた方がいいね。
お店が提供するメニューを黙って静かに食べた方がいい。
私も迷うことなくスパッと再転向。考えを元に戻す。
メニューから選んで食べる。カスタム禁止。店主に失礼。

といったところで、今日のお昼も酒井食堂。
ラミネート加工した手元の出前メニューを見やれば、
しっかし、どれもこれも最近食べたよなあ。。
肉そば要らねーしなあ。親子丼って気分でもないよなあ。。
はあ。。参ったなあ。。

よーし。ここは一発、再々転向!
しちゃおっかなあ。しちゃおっかなあ。
カスタムしちゃおっかなあ。しちゃおっかなあ。
鰻重にトンカツ乗せちゃおっかなあ♪