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しゃちょ。のメルマガジーヌ編集後記

#339俺はコマ回しの名人

どーも。オジコのしゃちょです。

お前は中1にもなってコマも回せないのか。
と、東京下町・谷中ぎんざを散歩していた際に、
ふらりと入った民芸店で買った木製のコマに、
紐をぐるぐるきつく巻きつけながら、
椿(つばき。娘。中1。)に偉そうな態度を取る私。

俺はコマ回しの名人なんだ。と昔取った杵柄、
しゅっと肘をしならせて腕を振れば、
コマは鮮やか過ぎるほど垂直に着地し、
もの凄い高速でクルクル回転。

「おとーさん、すごいっ!」
と、かれこれ数年振りになりましょうか、
娘からの羨望の眼差しを受け、溜飲を下げた私は、
つばちゃん、俺がコツを教えてやるよ。と、
これで回らなきゃこの世に回るものはひとつも無い。
ってくらい、超きつく巻いた紐とコマを娘に譲り渡し、
このご時世、殆どの人が知らないであろう、
横山光輝の名作、伊賀の影丸に出てきた、
知らぬ間に相手の背後に回り込む敵の忍者、
人影(ひとかげ)のように椿の背後に回り込み、
コマを持つ彼女の小さい手に私の手を添える。

肘を支点に腕を振りコマをリリースした後、すぐ手首を引く。
この手首と腕の引きが肝心なのである。
と、偉そうに熱弁、
娘にいいところを見せようと調子に乗る。

数回、腕の振りを反復練習した後、
さあ、いきますか。の号令のもと、
今は廃れてしまった古典的な宴会芸・二人羽織のように、
ぴったりと娘の背後に張りついた私が主導し、
娘の腕と一体化した自分の腕を勢いよく振る。
そしてリリース、その直後の強烈な手首の引き!

繰り返し述べるが、
コマ回しにおいて、この手首の引きが命なのである。
引きが弱いと、コマがそのまま勢いよく前方に飛び、
2メートルばかり先のガラス窓に直撃、
ふざけんな!の怒声とともに、かみさんに叱られる。

これだけは何としてでも避けなければいけない。
いい歳した父娘がコマ回しで叱られるのは情けない。
絶対にコマを前方に飛ばしてはいけない。
絶対にかみさんを怒らせちゃいけない。
との思いが強すぎたんだろうなあ。今から思えば。

「いくぞ!つばちゃん!」

「おーよ!おとーさん!」

と、我々父娘が、さすが親子だね!という、
阿吽の呼吸で強烈に引いた腕から放たれたコマは、
うっかり前方に飛ばしてしまってガラス窓をかち割り、
鬼のような形相のかみさんに激しくどやされる。
という心配が完全に杞憂に終わるほどに前方に飛ばず、
なんと、なんと、私の足の甲に垂直落下。
二本の腕による強烈な引きによって生み出された、
圧倒的に凶暴な高速スピンにより、
金属製のドリルと化したコマは、
私の足の甲をメリメリと侵食!

その恐ろしさといったらまるで、
このご時世、殆どの人が知らないであろう、
横山光輝の名作、伊賀の影丸に出てきたコマ使いの忍者、
左近丸(さこんまる)の必殺技「くも糸渡り」のよう。

「いってー!」と絶叫し、もんどりうって横転。
鋭い痛みに顔を歪め、涙目で歯を食いしばり、
それでも、つばちゃんの足の上じゃなくて良かったね。
落下したのが、俺の足の上でホントに良かったね。
と、己の激痛を棚に置き、精一杯の優しさを見せるも、
アホなコマドリルがとんちんかんに炸裂し、
みっともなく横転した父親の姿に爆笑してる娘には、
その優しさが響いているのか響いていないのか。